パリの滞在報告

松本 和一郎 パリ特派員

  明けましてお目出度うございます。  パリは珍しく快晴のうららかな陽光です。  私の1年間の滞在もはや3/4が終わってしまいました。
前半の180日の内、 研究のためと観光のために73日間もパリから出かけていまして いささかくたびれたので、後半の170日はパリに腰を落ち着けて研究とその成果を 論文にまとめることに精を出しています。
この数年間忙しくて長い論文を書く暇が 無かったので、今まで溜っている分をすべて形にして帰国したいと思っていますが、 なかなか進みません。  
昨年は親しかった偉大な数学者が相次いで他界し、一方親しい先輩が還暦を迎える 年回りで、to the memory of ・・・ と dedicated to the 60th anniversary of ・・・で 都合7編の論文を書かなければならなくなり、書く内容は7編分あるものの、 あと2カ月半でそれだけ仕上がるか危惧しています。研究者の世界も付き合いが 大変です。
 そんなわけで、このところ昼間に美術館に行く余裕が無く、夜にコンサートに 行くのと映画を見るのだけが楽しみです。コンサートはさすがに世界の中心の 1つだけに、オーケストラから古楽、民族音楽、ジャズ・・・と何でもあります。 私は古楽が好きで、CDでは知っていたけど生を聴いたことの無かったグループの 演奏会を選んで聴きに行っています。
 映画は、実は英語もフランス語もだめなので、 もっぱら日本映画に行きます。タケシの”花火”は良かったです。イタリア人の 日本贔屓の数学者の友人が、暴力は嫌いだからタケシの映画は嫌いだ、と言いますが、 暴力なしには行きていけない男の生き方に打たれるところがあります。 ”うなぎ”は見損ねました。他では古い映画が多く、追悼のために黒沢明の特集が あり、”7人の侍(完全版)”などを見ました。完全版は3時間を越える長さですが、 退屈しません。今は小津の映画の特集をしています。小津と溝口を見るなら、日本より パリのほうがはるかにしょっちゅう上映しています。小津と溝口はパリジャンにとって 毎日でも見たい映画に数えられています。
 ちなみにパリでは映画は今でも盛んに 見られ、小さい映画館が何百かあります。パリ・スコープなどの週刊情報誌に すべての映画館の上映映画が網羅されています。
 初めに研究ばかりしているように書きましたが、結構遊んでいますね。  周に1度有るか無いかの晴れの日ですから、いまからテニスに行ってきます。 といっても、この正月に試合に応じる相手もいないだろうから、壁打ちに なるでしょう。壁さんはとても強いです。私がどんな難しい球を打っても 必ず返してきます。今日こそは壁さんに参ったと言わせたいですが、壁さんは 寡黙でなかなか参ったと言いません。  それでは、皆様良いお年を!

          1999年元旦

                         松本和一郎
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